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魔法の薬
著者:高良あくあ
……で、次の日の放課後。『部長命令』により、今日も俺は陸斗を部室に連行してきたわけだ……
が。
「……悠真?」
隣に立つ陸斗から放たれる、アリくらいなら殺せそうなほどの殺気。小声で部長に話しかける。
「まずいですよ部長。この陸上バカ、二日連続で部活を休ませられたせいで機嫌が悪いんです」
「何とかしなさいよ、悠真。貴女の友達でしょ?」
「無理です。こいつは陸上に命をかけていると言っても過言ではない奴なので」
「ある意味凄いわね」
「だから成績が悪いんでしょうね、きっと。この間なんて――」
「テメェ、それ以上言ったら集中治療室送りにしてやる」
陸斗が物凄く怒っている顔で睨んでくる。怖ぇ。
と、そのとき救世主が部室に入ってくる。
「おっ……森岡さん、瀬野さん」
「あ、こんにちは。泉君、躑躅森先輩、羽崎君」
「やっほー陸斗、泉君、先輩」
「ああ、二人ともいらっしゃーい」
陸斗が固まる。俺はニヤリと笑い、瀬野さんに話しかける。
「瀬野さんも何か言ってやってよ、こいつに」
「ん? 陸斗がどうかしたの?」
「こいつ、名前の通り陸上バカだからさ、二日連続で部活に参加できないからって怒ってるんだよ。それは瀬野さんだって同じなのに、えらい違いだと思わないか?」
俺の意図を察したらしい部長が俺と同じようにニヤリとし、森岡さんが微笑む。
瀬野さんも陸斗のほうを向き、ニヤリ。
「ふーん、あたしは嬉しいけどね? そっかそっか、陸斗はあたしと会えるのも嬉しくないと……」
「な、そんなこと言ってないだろ!? で、先輩、今日も昨日と同じことをやれば良いんですか!」
「ええ良いわよー、うんうん。それで良いわ」
部長が面白そうに頷く。更に瀬野さんがからかうように言う。
「陸斗は陸上部のほうに行くんじゃなかったっけー?」
「うるさい、黙れ秋波! とにかくさっさと始めるぞっ!」
「りょーかい」
瀬野さんが嬉しそうに笑い、俺達から少し離れたテーブルで作業を始める。
……何だこれ。いつの間にこんなに仲良くなったんだ、こいつら。
って言うか瀬野さん……割と積極的な性格に見えるけど。むしろ積極的にしか見えないけど。
本当、よくわからない。
「森岡さん。瀬野さんって、『大人しい子』じゃなかったっけ?」
「い、いえ、その……お、大人しいですよっ! 明るくて積極的ですけど、騒がしいわけじゃないんです!」
森岡さんそれはこじつけって言うよ。
「……まぁ、両想いっぽいから良いけど。それじゃ、俺達も始めようか」
「あ……はい。」
***
活動を終え、陸斗以外は部室に残る。
「瀬野さん……あんなに仲良いんだし、さっさと告白しちゃえば良いのに」
思わず呟くと、瀬野さんは首が千切れるんじゃないかと思うほど凄い勢いで首を横に振る。
「無理、絶対無理っ!」
「どうしてそう思うの? 秋波」
部長が訊ねる。
「……あたしだって、告白したいとは思っていますよ。両思いになれたら、って。けど、もし断られたら? そしたら、あたしはどうすれば良いんですか?」
ああ。瀬野さんは要するに、最後の一歩が踏み出せない。
って言うかそれ以前に、百パーセント以上の確率で告白が成功するであろうことに、気がついていない。
よく『鈍感』とかって言うけど、当事者って案外気付かないものなんだな、本当に。
それはともかく。
「でも、言わないわけにはいかないでしょ? いつまでもここで一緒に実験ばかりしていることは出来ないわよ?」
「それは、分かってますけど……」
部長の言葉を聞いて不安そうに俯く瀬野さん。それを見て、部長はニヤリとする。
森岡さんが首を傾げる。
さぁ、今回も――部長の『魔法』の始まりだ。
「そんな秋波にプレゼント」
「え?」
部長が、瀬野さんの手に小さな瓶を乗せる。中には桃色の液体が入っている。ほのかに甘い香りがする。
「……先輩? 何ですか、これ」
「ふふっ……『告白を成功させる』ための秘密兵器よ」
「え?」
全く分からない、といった様子で首を傾げる瀬野さん。ま、そりゃそうだろうな。
部長が笑顔で説明する。
「惚れ薬みたいな効果があるのよ、この香りには。で、告白のとき成功する確率が高くなると。うちの部が『恋を叶える』って有名なのは、これのおかげと言っても過言じゃないわ。ああ、瓶は開けないようにね。効きすぎても困るでしょう?」
「あ、はい……どこで手に入れたんですか、こんなの」
「私が作ったのよ」
部長の言葉に、瀬野さんは目を丸くする。
「え……あ、ああ、そっか! 先輩、『発明にかけては天才』だから!」
部長が頷く。
「ええ。だからそれも、お遊びのつもりで作ってみたら意外と役に立っているの。で、どうするの?」
「……先輩がここまでしてくれたんですから……してみます、告白」
それを聞いて、部長は微笑んだ。そして、俺と森岡さんも。
……まぁ、間違いなく成功するだろうけど。
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